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マコーレー・デュレーションと債券価格近似式

債券価格の近似式としては、「修正デュレーション」を使う式が有名だが、「マコーレー・デュレーション」を直接使う式もあるようだ。先日初めて知ったのだが、素朴な方法で関心したので、内容を書き留めておこうと思う。

マコーレー・デュレーション

デュレーション(Duration、期間)という名前のとおり、債券(やキャッシュフロー系商品)の平均残存期間を表す指標。金利リスク管理金利変化による価格変化の管理)に役立つとされている。1938年にマコーレーにより提唱された。

 D_{mac}= \dfrac { \displaystyle \sum_{t} \dfrac{t\times C_t}{(1+i)^t}} { \displaystyle \sum_{t}\dfrac{C_t}{(1+i)^t}}

ここで、 tは各期(基本的には年)、 C_tは各期のキャッシュフロー(債券であればクーポンや償還額)、 i金利(利回り)。

分母は債券価格そのもの。各期のキャッシュフローの残存期間 tを、各期のキャッシュフローの現在価値{C_t}/{(1+i)^t}で加重平均したものとなっている。

修正デュレーション

修正デュレーション(Modified Duration)とは、マコーレー・デュレーション(1+i)で除したものである。すなわち、

 D_{mod}= \dfrac{D_{mac}}{1+i} =\dfrac { \displaystyle \sum_{t}\dfrac{t\times C_t}{(1+i)^{t+1}}} { \displaystyle \sum_{t}\dfrac{C_t}{(1+i)^t}}

また、分母の債券価格を P(i):= \sum_{t} {C_t} / {(1+i)^t}と書くと、分子は -P^{'}(i)となるので、修正デュレーションは、次のようにも書くことができる。

 D_{mod}= -\dfrac{P^{'}(i)}{P(i)}

なお、上式の右辺は負の符号がついているが、(マコーレー・デュレーションもそうだが)修正デュレーションキャッシュフローの平均残存期間なのでプラスの値である。つまり、{P^{'}(i)}の値はマイナスである。(金利が上昇すると債券価格は下落する理由)

修正デュレーションと債券価格近似式

さて、債券価格 P(i)を、ある金利 i_{0}の周りでテイラー展開すると、

 P(i) \approx P(i_{0})+P^{'}(i_{0}) \cdot (i-i_{0})

となるので、右辺を P(i_{0})でくくって、 D_{mod}(i_{0})= -{P^{'}(i_{0})} / {P(i_{0})}に留意すれば、

 P(i) \approx P(i_{0}) \left(1-D_{mod}(i_{0}) \cdot (i-i_{0}) \right)

として、修正デュレーションを使った近似式が得られる。(これが、先に修正デュレーションを定義した理由である。)

この式より、 i_{0}を今の金利とすれば、金利 i_{0}から iになった場合の債券価格の変化額( P(i_{0})対比だと変化率)は、修正デュレーション×金利変化幅で近似できることが分かる。

例えば、金利が上昇する場合、金利変化幅はプラスであり、また、修正デュレーションはプラスの値であるから、債券価格は、修正デュレーション×金利変化幅だけ下落する。

つまり、この近似式の意味を評語的に言えば、「金利が変化した際の価格計算めんどいから、"単利"とみなして計算したったわ」ということになるだろう。

なお、近似の精度を上げたい場合には、テイラー展開で二次の項まで残すことで、コンベクシティの概念が出てくるが、ここでは省略。

マコーレー・デュレーションと債券価格近似式

ここからが本題。先に見た例では、債券価格の近似計算に、マコーレー・デュレーションではなく、修正デュレーションが使用された。

ただ、マコーレー・デュレーションは、キャッシュフローの平均残存期間の計算方法として、(少なくとも修正デュレーションより)分かりやすい。また特に、割引債(ゼロクーポン債)のデュレーションについては、マコーレー・デュレーションの場合、償還年限そのものになるので、明らかに理解しやすい。

では、債券価格近似式にマコーレー・デュレーションを直接使う方法はないのだろうか…。と思うと、実はそれがあって、近似式としては以下のようになるようだ。

 P(i) \approx P(i_{0}) \left( \dfrac{1+i_{0}}{1+i} \right)^{D_{mac}(i_{0})}

ただ、分かりそうで分からない式。こう書けば少し分かりやすくなるだろうか。

 \dfrac{P(i)}{P(i_{0})} \approx   \dfrac {{1} / {(1+i)^{D_{mac}(i_{0})}}}  {{1}/{(1+i_{0})^{D_{mac}(i_{0})}}}   

つまり、P(i) \approx   {K} / {(1+i)^{D_{mac}(i_{0})}}P(i_{0}) \approx   {K} / {(1+i_{0})^{D_{mac}(i_{0})}}ということで、債券価格自体を単一の割引債で近似しており、その残存期間にマコーレー・デュレーションが現れる。(なお、このKはその割引債の償還額に相当するものだが、 {P(i)}/{P(i_{0})}の計算の際にキャンセルされるので特に重要ではない。)

そのため、この近似式の意味を評語的に言えば、「金利が変化した際の価格計算めんどいから、"割引債"とみなして計算したったわ」ということになるだろう。

では、なぜこのような式が成り立つのか。以下で計算を追ってみる。

上式の導出

まずはやはり、債券価格P(i)を、P(i) \approx   {K} / {(1+i)^{T}}という形で書けないか(ここで、TKは定数)。もし書けるとしたら、このTは何になるか。これがモチベーションとなる。

さて、この式を変形すると、P(i) \cdot (1+i)^{T} \approx  Kとなる。そのため、P(i) \cdot (1+i)^{T} が定数(すなわちiに依らない数)となるTを求める。

これを求めるには、A(i):=P(i) \cdot (1+i)^{T} と置き、 {dA(i)} / {di}=0 となるTを計算すればよい。よって、

 P^{'}(i) \cdot (1+i)^{T}+T \cdot P(i) \cdot (1+i)^{T-1} =0

より、

 T = - \dfrac {P^{'}(i)} {P(i)} \cdot (1+i) \\  =D_{mod}(i) \cdot (1+i)=D_{mac}(i)

を得る。なるほど、このTはマコーレー・デュレーションであった。

続いて、A(i) をある金利 i_{0}の周りでテイラー展開すると、

 A(i) \approx A(i_{0})+A^{'}(i_{0}) \cdot (i-i_{0})

となるが、 A^{'}(i_{0})=0なので、結局、 A(i) \approx A(i_{0})となる。ここで、Tは定数としていたこと(つまり、 A(i)=P(i) \cdot (1+i)^{D_{mac}{(i_{0}})} としていたこと)に留意すれば、

P(i) \cdot (1+i)^{D_{mac}{(i_{0})}} \approx P(i_{0}) \cdot (1+i_{0})^{D_{mac}{(i_{0})}}

となる。これにて、上記の債券価格の近似式が導出された。

計算例

10年満期、償還金100円、年1回クーポン10円の利付き債

金利 10%の場合、価格は 100円となる。また、金利 11%になった場合の価格は厳密計算で 94.11円となる。

さて、マコーレー・デュレーションは、   { \left( \frac{1 \times 10}{1.1}+ \frac{2 \times 10}{1.1^2}+\cdots + \frac{10 \times 110}{1.1^{10}}  \right) } / {100}=6.759であり、修正デュレーションは、 6.579/1.1=6.145である。

ここで、修正デュレーションで近似計算した価格は、 100 \times(1-6.145 \times 0.01)=93.86となる。

一方、マコーレー・デュレーションを用いた近似式で価格を計算すると、 100(1.1/1.11)^{6.579}=94.07となる。素晴らしい。

10年満期、償還金100円、割引債

金利 10%の場合、価格は 38.55(=100/{1.1}^{10})円となる。また、金利 11%になった場合の価格は厳密計算で 35.22(=100/{1.11}^{10})円となる。

さて、マコーレー・デュレーションは、定義からすぐ分かるように 10であり、修正デュレーションは、10/1.1=9.091である。

ここで、修正デュレーションで近似計算した価格は、 38.55 \times (1-9.091 \times 0.01)=35.05となる。

一方、マコーレー・デュレーションを用いた近似式で価格を計算すると、 38.55(1.1/1.11)^{10}=35.22となって厳密計算と完全に一致する。大変素晴らしい。

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※間違い等ありましたらお手数ですがコメント等いただけますと幸甚です。