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移流方程式の解析解の計算(3) 変数分離法

今回も移流方程式の解析解を求める。前々回は変数変換法、前回は特性曲線法を用いたが、移流方程式のような一階偏微分方程式は特性曲線法で解けることが知られており、「変数分離法」を用いるまでもない。ただ、「変数分離法」は二階偏微分方程式の解法によく使われる方法であるため、この方法を一階偏微分方程式である移流方程式に適用するとどうなるかを確認してみようと思う。

考える問題(前回の再掲)

移流方程式とは、次の形の線形偏微分方程式であった。

 \dfrac{\partial u}{\partial t} + c\dfrac{\partial u}{\partial x} =0

前回は特性曲線法により、この方程式の一般解を求めたが、今回は、前々回と同じく、初期条件 (1.0+\cos \pi x)および周期境界条件 u(0,t)=u(2,t) を満たす解(特殊解)まで求めることにする。

変数分離法による解析解

(変数分離できる前提での)一般解の計算

u(x,t)xtが変数分離形、つまり、u(x,t)=X(x)T(t)と書けるとする。すると、移流方程式は、

 X\dfrac{d T}{d t} + c T \dfrac{d X}{d x} =0

となるから、両辺をcXTで割って、左辺第二項を右辺に移項すると、

 \dfrac{1}{cT} \dfrac{d T}{d t} = - \dfrac{1}{X} \dfrac{d X}{d x}

を得る。これで両辺にうまく変数が分離できたから、両辺とも任意の定数Aと等しいとすれば、

 \dfrac{1}{T} \dfrac{d T}{d t} = Ac

より、T=\alpha e^{Act}となる(ここで\alphaは任意定数)。

続いて、

 \dfrac{1}{X} \dfrac{d X}{d x} = -A

より、X=\beta e^{-Ax}となる(ここで\betaは任意定数)。

よって、

 u(x,t)=X(x)T(t)=\gamma e^{-A(x-ct)}

が解として求められる(ここで\gamma = \alpha \betaとした)。

解が変数分離形で書ける前提で計算してきたため、変数変換法や特性曲線法で導いた一般解 u(x,t)=f(x-ct)に比べて形が特定されすぎているように見えるが、このまま計算を続ける。

周期境界条件を満たす解の計算

さて、周期境界条件 u(0,t)=u(2,t) を満たすためには、A複素数である必要がありそうである。そのため、A=i \thetaとすると、

 u(x,t)=\gamma e^{-i \theta(x-ct)} = \gamma ( \cos \theta (x-ct) - i \sin \theta (x-ct))

と書ける(オイラーの公式)。このとき、

 u(0,t)= \gamma ( \cos (-\theta ct) - i \sin (- \theta ct))

 u(2,t)= \gamma ( \cos (2\theta- \theta ct) - i \sin (2 \theta - \theta ct))

であるから、 u(0,t)= u(2,t)となるためには、

 2 \theta =2m \pi

である必要がある(ここでmは任意の整数)。

ゆえに、

 u_{m}(x,t):=\gamma_{m} ( \cos m \pi (x-ct) - i \sin m \pi (x-ct))

は周期境界条件を満たす解の1つであり、その重ね合わせも解となるから、 uは、

 u(x,t)=\sum_{m} u_{m}(x,t)

と書けるが、もう少し工夫をすることにして、 \gamma_{m} = a_{m}+i b_{m}とすれば、

 u(x,t) \\= \sum_{m} (a_{m}+i b_{m}) ( \cos m \pi (x-ct) - i \sin m \pi (x-ct)) \\ = \sum_{m} (a_{m} \cos m \pi (x-ct) + b_{m} \sin m \pi (x-ct) +i b_{m} \cos m \pi (x-ct) - i a_{m} \sin m \pi (x-ct))

と展開できる。

ここで、求める解はこの実数部分(実部)なので、上記の実部だけをあらためて u(x,t)とすれば、周期境界条件を満たす解は、

 u(x,t) \\= \sum_{m} (a_{m} \cos m \pi (x-ct) + b_{m} \sin m \pi (x-ct) ) \\= a_{0}+ \sum_{m=1}^{\infty} (\tilde{a}_{m} \cos m \pi (x-ct) + \tilde{b}_{m} \sin m \pi (x-ct) )

と求められる。ここで、 \tilde{a}_{m}=a_{m}+a_{-m} \tilde{b}_{m}=b_{m}-b_{-m}とした。

初期条件を満たす解(特殊解)の計算

最後に初期条件を考慮する。

 u(x,0) = a_{0}+ \sum_{m=1}^{\infty} (\tilde{a}_{m} \cos m \pi x + \tilde{b}_{m} \sin m \pi x )

であるが、初期条件は 1+\cos \pi xなので、 a_{0}=1 \tilde{a}_{1}=1およびそれ以外の係数を 0とすればよい。したがって、周期境界条件を満たす解にこの係数を入れれば、初期条件も満たす解(特殊解)は、

 u(x,t) = 1 + \cos \pi (x-ct)

として求められる。

これは、前々回に変数変換法で計算した特殊解と同じであり、今回の変数分離法でも解を求めることができた。

所感

変数分離法では、解が変数分離形で書ける前提で計算しており、境界条件や初期条件によっては解が求められない場合もあるかもしれないが、少なくともこの例では、周期境界条件を課した結果求められる解はフーリエ級数展開の形をしている。そのため、あとは初期値関数がフーリエ級数展開できるものであれば、問題なく解を求めることができる。

なお、二階偏微分方程式波動方程式、拡散方程式、ラプラス方程式)に変数分離法を適用すると、虚数項は通常うまく別の任意係数に書き換えられるため出てこないが、一階偏微分方程式では虚数項が残り続けるのも面白い。

(ただ、虚数項(虚数解)は虚数の世界で閉じていて、実部に影響を与えないため、特に問題なく実数解を求めることができる。)

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間違い等ありましたらお手数ですがコメント等いただけますと幸甚です。次は拡散方程式の解析解の計算に入ろうと思います。